清野栄一『デッドエンド・スカイ』を読んだ

やるせなくなる小説だ。

小説『デッドエンド・スカイ』は以下の5つの章からなっている。
・ブルターニュ14-1
・デッドエンド・スカイ
・140BPM
・パラダイス・ホテル
・ブルターニュ14-2

始まってすぐセリーヌ『夜の果ての旅』からの引用がある。

〈列車が駅にはいった、機関車を見たとたん、僕はもう自分の冒険に自信がなくなった。僕はやせこけた体にあるだけの勇気をふるってモリーに接吻した。こんどばかりは、苦痛を、真の苦痛を覚えた。みんなに対して、自分に対して、彼女に対して、すべての人間に対して。
僕らが一生通じてさがし求めるものは、たぶんこれなのだ、ただこれなのだ。つまり生命の実感を味わうための身を切るような悲しみ。〉

そして、小説の終わり直前。

「ベンチを立って歩きかけると、踏みしめた足元の土が乾いた音をたてた。こうやって動き続けていればおれたちは、どこかの空の下や土やアスファルトの上でまたきっと出会うはずだ。人込みの中で踊っているカオリやミジェンヌの姿を見つけるはずだ。それはここで誰かを待ち続けるよりもずっと確かなことだった。」

こことは、パリ、ブルターニュ通り14番地のこと。主人公は1988年に東京からパリに向かう。それは、やがてセカンド・サマー・オブ・ラブと呼ばれることになる1988年で、ブルターニュ通り14番地のパンション・ババルースに住む。そこには友人となるジミヘン狂のアラブ系マルシアが住んでいた。当時のパリは学生とパンクスとジャンキーと失業者がごた混ぜになったデモが続いていた。

そのデモの中でミジェンヌと出会う。やがて主人公とマルシアとミジェンヌの3人は、ぼろぼろのルノーにバックパックやテントやスピーカーを詰め込んで旅をする。ベルリンからイギリスやイビザ島、ヨーロッパ各地を外で踊れるところなら何処にでも旅をする。

3人の旅はヨーロッパを離れて、東南アジアからインドにおよび、バンコクでミジェンヌは彼らと別れる。そのミジェンヌの消息を尋ねて、再びパリを訪ねる。これが最終章「ブルターニュ14-2」、最初のパリから12年後のことだ。最初のパリのことは最初の章「ブルターニュ14-1」と題されている。 なお、カオリとは第3章の「140BPM」で登場する女性だ。

第2章の「デッドエンド・スカイ」から物語がスタートする。主人公は博之という。彼の東京のアパートに同い年のいとこの幸太郎が転がり込んでくるところから始まる。幸太郎は大学を卒業して証券会社に就職するものの3年で退職。その後はふぬけ野郎になっていて博之の狭いアパートから出て行こうとしない。90年代の閉塞感がぷんぷんと臭ってくる。

第3章の「140BPM」は代々木公園のDJパーティから始まる。カオリが博之の前に姿をあらわす。幸太郎をよく知りたくて博之から話を聞きたいらしい。幸太郎はDJをやっているという。カオリが幸太郎と出会ったのはベルリン、ラヴ・パレード。博之は幸太郎がDJをする山の中のレイブに出かける。

「テクノとかトランスってベルリンに行くまで聴かなかったんだけど」
「でもアレックと知り合ってレイブに行って踊ってみたら、なんか、気持ちが勝手にわてくるっていうの? なつかしいとかハッピーとかヤバそうとか、そういのがドーッて来ちゃって、それから踊るの好きになったよね」
とカオリは幸太郎の運転する車の中で博之に話す。

ここに出てくるアレックは、ベルリンのラブ・パレードの後、スピーカーを積んだ車に仲間を連れて郷里のボスニアのサラボエに向かう。カオリや幸太郎もその中にいた。まだ戦場のボスニアを通る、そういう時代だ。

第4番目の章「パラダイス・ホテル」の博之はオーストラリアの砂漠の中にいる。大晦日のレイブを目指していたが、レンタカーの故障で砂漠の辺鄙なホテルに釘付けになっている。「140BPM」から3年後の話で、幸太郎は昨年、一人で出かけたベルリンで死んだと。

この小説には、〈生命の実感を味わうための身を切るような悲しみ。〉がつまっている。それは留まらず、動き続ける限り終わらない。いつまでも・・・。


ぼくは90年代の閉塞感の中をなんとか生き延びた。この小説に出てくるようなレイブとかクラブのDJパーティを何ひとつ知らずに、ただ飯を食うための仕事にしがみついていた。だから、博之のアパートで無為に過ごす幸太郎の気持ちがとても分かる。ぼくは幸太郎にならないようにがんばっていたのかもしれない。

清野栄一の小説を読もうと思ったのは、今年の6月の味園「ギャラクシーギャラリー」でのKC展クロージングパーティがきっかけだった。この日、清野氏は福島県出身ということで反原発のスタンスから「原発トークショウ」を行った。これだけだったら、著書を読む気持ちになれなかったと思う。強いきっかけは、トークショウの後に行われた「せぴあ」のライブだった。ハードコアパンクバンドかな、せぴあでKC氏と共に演奏する清野氏を見たからだった。

デッドエンド・スカイ
清野栄一著(河出書房新社、2001年6月発行)