アマチェム星のセーメ / ロベルト・ピウミーニ作の児童文学

アマチェム星では、泉からわき出た水が川になり、川は低い所から高い所に流れて盛り上がり山を形作っている。水の山には魚が泳いでいるが、水から出てひれが翼となって、空を飛ぶこともできる。鳥魚という。木々には根っこがなくて天空に浮かんでいる。その木の枝をすみかに暮らしているのがアマチェム人だ。人間との違い多々あるが、一番の違いは頭に髪の毛がなくて、赤くて動く雲をのせているが、それは彼らの「こころ」だ。という具合に、アマチェム星はとてもシュールな世界だ。

この小説の主人公はセーメという名のアマチェム人。彼は、アマチェム星を後にして、広い宇宙に旅立つ。彼は宇宙で、さまざまな星とそこに住む人に出会う。どれもこれも想像力を刺激する奇抜な星や人たちだ。セーメはアマチェム星に留まって、人生を送るわけでなく、宇宙を旅する傍観者なので、本書を小説と呼べるかどうか疑問なところもある。詩と小説の間にある、と言った方がいいかもしれない。いや、それ以上にシュールレアリズムの絵画を見ていると言った方が当たっているかもしれない。文学というなら、とても乾いた文学だと思う。

表紙の絵が素晴らしい。中の挿絵もなかなかのものだ。「イタリアからのおくりもの――5つのちいさなファンタジア」というシリーズ名で出版されたもの。以下に資料をメモっておく。

ヒットラーのむすめ / ジャッキー・フレンチの児童文学

とても気になるタイトル。時代は現代。・・・車の前にカンガルーが飛び出してきたり。れれっ思って、後ろの作家紹介を読んだら、オーストラリアの作家。舞台はその田園地帯。あのナチスのヒットラーなので、はなからヨーロッパのお話と思い込んでいた。なぜ、オーストラリアなのかは、最後に分かる。

子どもたちは、毎朝、家族にスクールバスの停留所まで車で送ってもらう。主人公たちの停留所にはいつも決まった4人が集合する。遊びながらバスを待つが、遊びの一つにお話ゲームがある。ある雨の日、久しぶりにお話ゲームをしようとなって、一番お話のうまいアンナが「ヒットラーのむすめの話」をするという。そのお話は何日も続き、その影響を受けた子の意識の変化も描かれる。

彼は、父親がヒットラーだったらどうしよう? と考えたりする。父にナチスについて質問したりしているまでは良かったが、祖父は先住民のアポリジニーの土地を奪ったのでは、なんて質問するに及んで、さすがの父親は怒り出す、なんてこともある。

始めは、ヒットラーやナチス党、強制収容所などの説明的な記述がつづく。ナチスへの批判というスタンスを取りながら、第一次大戦後、疲弊したドイツ国民がなぜヒットラーを支持したのかなど、客観的な分析もちゃんと書かれている。そういうわけで、前半は教育的な視点が小説の範疇を逸脱しているのではないかと危惧しながら読んでいた。

でも、違った。読み進むうちに、待合所のメンバー同様、アンナのお話の続きを心待ちにするようになる。それだけアンナの創作能力が高い(もちろん作家の能力だけど)。話が佳境に入って行くに従い、こんなん、オーストラリアの一少女が知っているはずがない、思うようになる。でも、アンナはあくまでお話だと、言う。でも、自分の創作ではないという。ある人がお話だと言って、聞かせてくれたお話だと言う。

うーん、すごいよ。これを読んだら、あのヒットラーにほんとうに娘がいたような気分になる。来月はケーブルテレビで、ドイツ自らがヒトラーを描いた問題作と評判の『ヒトラー~最後の12日間~』がある。すごいタイミング。

ヒットラーのむすめ
著者 ジャッキー・フレンチ((c) Jackie French 1999)
訳者 さくまゆみこ
発行 鈴木出版、2004年12月

夜のパパ / マリア・グリーペ 著

ユリアという小学生、たぶん4年生ぐらいの少女と、彼女が夜のパパと呼ぶ青年がいる。二人の間にスムッゲルという名のフクロウと、二人が「夜の女王」と呼ぶ鉢植え植物がある。一羽の鳥と一鉢の植物が二人の間で触媒のような働きをしながら、ユリアと夜のパパの交流がときに緊張を、ときに優しさを与えてくれる素晴らしい児童小説。

ユリアの母親は看護師をしているシングルマザー。ユリアは始めから父親を知らずに育ち、父親を欲しいとも思っていない、気丈で繊細なこころを持った少女。夜勤になった母親はユリアの希望も聞かずに、夜中に過ごしてくれる人を新聞広告で募集する。ユリアは自分はもう大人だから夜だって一人で平気、と怒り、彼女が寝てから家に来ることを条件に母親の提案を受け入れる。

しかし、ユリアは最初の日から、顔を見ないままに、夜のパパの繊細なこころを見抜き、お互いのこころの交流を予感する。そー、映画『シベールの日曜日』にそっくりだ。シベールは両親に見放されて寄宿舎で暮らすユリアと同じぐらいの少女。日曜日の面会日、誰も来ないのを知っていて一人佇むシベール。修道女は記憶喪失の青年ピエールをシベールの父親と早とちりをする。その間違いを利用して、寄宿舎から外出するシベール。ピエールを利用したはずなのに、すぐに特別な相手であることを知るシベール。

ユリアと夜のパパ、シベールとピエールはとても似ている。特に会話をリードするのは少女の方だ。これはおもしろい一致だ。映画は1962年のフランス映画。本書は1968年のスウェーデンの児童向けの小説。十代半ばの少女と2、30歳代の青年のこころの交流を描くことは、今ならとても難しい。ぼく自身、この小説や映画をこのように賞賛すること自体に少なからず緊張をともなっている。・・・今は、こういう時代だ。

『シベールの日曜日』では悲劇的結末を迎えるが、『夜のパパ』の方は、鉢植えの植物「夜の女王」とフクロウのスムッゲルの劇的な行為により、ユリアと夜のパパはより強いきずなに結ばれていることをお互いに自覚して、終わる。

夜のパパ
著者 マリア・グリーペ((c) Maria Gripe, 1968)
訳者 大久保貞子
発行 ブッキング、2004年8月
本書は1980年にはじめて翻訳が出版されているが、長い絶版状態にあり、「復刊ドットコム」によって発行された新版。

《関連記事》
本書の続編『夜のパパとユリアのひみつ

空にうかんだ大きなケーキ / ジャンニ・ロダーリ(イタリア)の児童文学

ローマのニュータウンで起きたお話。ある朝、ニュータウンの上空に巨大な円形の物体が浮遊している。警察、消防署そして軍隊も出動する大騒ぎになる。火星人が空飛ぶ円盤で襲来したというわけだ。パオロとリタというヤンチャな幼い兄妹がいて、その円盤の正体がケーキだってことを最初に見つけてしまうお話。それで、最後は大勢の子どもたちがやってきて、そのケーキを食べてしまうというんだ。なんで、ケーキが上空を浮遊してるかと言えば、科学者が新しい原子爆弾を作って実験したらキノコ雲がケーキになったというんだ。

まったく、論理的でないよね。バルカン星人が聞いたら怒るよ。バルカン星人でなくたって、こんな話しを大人がするか・・・。そう思いながら結局最後まで読んでしまったけど、これは、ローマのトゥルッコというニュータウンにある小学校で、4年生を終えたクラスの子どもたちと一緒に作ったお話だと書いてあった。それで、納得。1964年のことで、その年に新聞に連載されたそうだ。とにかく、ほとんどが会話の小説。イタリア映画のやかましいぐらいの早口を想像してしまう。

日本では1970年に安藤美起夫氏の翻訳で講談社から出版されたが、今回、「イタリアからのおくりもの――5つのちいさなファンタジア」というシリーズの一冊として新たに翻訳されたもの。挿絵も可愛い。

●イタリアからのおくりもの――5つのちいさなファンタジア
木の上の家 / ビアンカ・ピッツォルノ
空に浮かんだ大きなケーキ / ジャンニ・ロダーリ(本書)
ベネチア人にしっぽがはえた日 / アンドレア・モレジーニ
ドロドロ戦争 / ベアロリーチェ・マジーニ
ロベルト・ピウミーニ / アマチェム星のセーメ

空に浮かんだ大きなケーキ
作 ジャンニ・ロダーニ
訳 よしとみ あや
絵 井川ゆり子
発行 汐文社、2006年9月

ヒキガエルとんだ大冒険2 消えたモートンとんだ大そうさく

消えたモートンとんだ大そうさく (評論社の児童図書館・文学の部屋 ヒキガエルとんだ大冒険 2)シリーズの2冊目。ヒキガエルの兄弟、ウォートンとモートンはハイキングに出かける。キャンプでも料理名人モートンの作る料理がさえる。楽しい夜のキャンプで寝静まった頃、増水した川に二匹はあっという間に流されて、離ればなれになってしまう。
それで、ウォートンは見失ったモートンを捜し歩くことになる。沼地でマスクラットたちと仲良くなり、兄弟探しに協力してくれる。しかし、マスクラットはビーバーたちと敵対している最中で、ウォートンもその争いの渦中に立ってしまう。

なんど、その渦中に、ウォートンはビーバーたちの中にモートンを見つけてびっくり。モートンはビーバーたちに美味しい料理を教えているが、その時、粉ふるいがこわれて粉だらけになっている。それを見てウォートンはビーバーたちに料理される思ってしまうから笑ってします。

ウォートンとモートンのおかげで、マスクラットとビーバーは話合って、仲違いが解決する。ま、なんともハートウォーミングがストーリーだが、ストーリーづくりがうまくて、ついはまってしまう。

ヒキガエルとんだ大冒険2 消えたモートンとんだ大そうさく
作 ラッセル・E・エリクソン
絵 ローレンス・ディ・フィオリ
訳 佐藤凉子
発行 評論社、2008年2月

《このブログの「ヒキガエルとんだ大冒険」シリーズ》
ヒキガエルとんだ大冒険5 ウォートンとモリネズミの取引屋
ヒキガエルとんだ大冒険4 SOS!あやうし空の王さま号
ヒキガエルとんだ大冒険 3 ウォートンのとんだクリスマス・イブ
ヒキガエルとんだ大冒険 1 火曜日のごちそうはヒキガエル