読書メモ:絲山秋子著『ばかもの』

ばかもの

新潮 2008年1月号~8月号 初出

ヒデと年上の女、額子の恋愛。ヒデは大学生で19才、バイト先で額子にナンパされて付き合い始め、2年間付き合って額子に捨てられる。次に同じ講義を受けているネユキと付き合う。ロックのイエスだけをいつも聞いているネユキの部屋にヒデはよく泊まるがセックスはない。ネユキはデイトレーダーをやってる裕福な学生だ。

ヒデは大学を卒業して家電量販店に就職していた。ネユキは宗教に走り、彼女の方から付き合いを切られた。今度は、友人の婚約者の友だちの翔子と付き合いはじめた頃から酒を飲み過ぎるようになる。翔子とは結婚が見えていた。2年がたって28才の頃にはアルコール依存症が始まる。そして深い依存症へ。翔子も友人も職場も失い、親に頼る惨めな生活。

入院して依存症から快復して、額子と再会。愛を深める。この恋愛小説は好きになれない。『海の仙人』や『エスケイプ/アブセント』にはすごく感情移入しておもしろかったのに、この『ばかもの』は全然だめだ。同じ作家の作品とは思えない。いや、やはり絲山の作品だ。最後の方で、ヒデは「かつて自分をアルコールに駆り立てたものが、行き場のない思い」であったことを述懐する。そうなんだ。絲山秋子の小説はいつもいつも、行き場のない思いが描かれていて、そこにぼくは没入しているんだと思う。