ジュディ・バレットの絵本 “Old Macdonald Had An Apartment House”

Old Macdonald Had An Apartment Houseマクドナルドさん夫妻は古いアパートの管理人。マクドナルドさん、ひょんなことから野菜作りに目覚めて、アパートの回りの生け垣を刈り取って、野菜畑にしてしまう。もちろんアパートの住人のひんしゅくをかうのだが、マクドナルドさんはこれでおさまらない。

空き部屋が出たのでこれ幸いと、部屋にまで野菜を植えてしまう。クローゼットにキノコというのは笑える。そんなんで、住人は次々とアパートを出ていくけど、マクドナルドさんの思うつぼ。空き部屋をどんどん畑にして牛やニワトリまで飼い出した。

そんな事態を知ってアパートのオーナーは怒って管理人をクビにするけど、ちょっとまてよ、と考え直す。これはもうかるかもしれんな、と。

日本版は
マクドナルドさんのやさいアパート
(朔北社、2009年9月発行)

マーシャ・ブラウンの絵本『空とぶじゅうたん』

空とぶじゅうたん―アラビアン・ナイトの物語よりマーシャ・ブラウン 再話・絵、松岡享子 訳(アリス館、2008年12月発行)

市立図書館で目にしたんだけど、なんて生き生きとした絵だろうと見入ってしまった。さらに、これが1950年代の作品と知ってびっくり。この絵本には50年代特有の良き時代的な古さが感じられないのね。ぼくはこの有名な絵本作家を知らなかったんだ。

1918年生まれで、今年93歳を迎えるとか「千葉みどり文庫」サイトの「マーシャ・ブラウン」ページが詳しい。この中に、『絵本 「空とぶじゅうたん」 の発刊によせて』のページが日本語版発刊についてのいきさつが詳しく紹介されており、非常に興味深い内容だった。

アメリカで発刊されているものは、けばけばしい色で作者の意にそぐわないこと。日本版は原画に近く、そのための関係者の努力が詳しく紹介されている。50年代には、色の原盤を画家が作るなど、印刷に関することも写真付で紹介されていて興味がつきない。この記事を書かれた細谷みどりさんは、編集協力と日本版にクレジットされている。

内容はアラビアン・ナイトの物語の再話だが、なかなかおもしろいストーリーだった。

Images from the Marcia Brown Collection」ではマーシャ・ブラウンのたくさんの絵を見ることができる。また、下記の絵本をぜひとも見たいと思う。

Once a Mouse... Three Billy Goats Gruff

ジビュレ・フォン・オルファースの絵本『The Story of the Snow Children』

The Story of the Snow ChildrenSibylle von Olfers 著(Flores Books)

ジビュレ・フォン・オルファース(1881―1916年)の1905年発行の最初の絵本。本書には彼女の写真が載っている。気品のある美人が本を読んでいる写真だ。絵にも気品が漂っている。配色もある種の独特の調和がある。アール・ヌーヴォーの影響が強いと思う。

雪の降る日、一人で留守番をしている女の子が外に出ると、雪の精に誘われて雪の女王の宮殿に案内させられる。その日、プリンセスの誕生祝いが盛大に行われる。プリンセスの案内で宮殿を巡ったり、ダンスに興じたりしているが、家に帰ることになる。氷のソリに乗って家まで送られる。ソリはスノーマンが操る四頭の白熊に引かれている。

Floris Books の『The Story of the Snow Children』ページ

マイケル・モーパーゴ著『モーツァルトはおことわり』を読んだ

モーツァルトはおことわりマイケル・モーバーゴ著、マイケル・フォアマン絵、さくまゆみこ訳(岩崎書店、2010年7月発行)

著者のマイケル・モーパーゴは2年前に読んだことがある。それは、第一次世界大戦の西部戦線を描いたナイーブな戦争小説『兵士ピースフル』だった。『兵士ピースフル』は児童文学だが、本書は絵本。絵本と言っても、文章の多い絵本。ストーリーに引き込まれて、一気に読んでしまった。しかし、本書は絵も良かった。特にナチスの強制収容所の絵に見入ってしまった。

『モーツァルトはおことわり』は、ベニスの天才バイオリニスト、ポオロ・レヴィへ新米の若い編集者がインタビューするところから始まる。演奏旅行以外は、生まれ故郷のベニスで静かに暮らすポオロが、これまで明かすことのなかった過去を初めて若い編集者に語り出す。

なぜ「モーツァルトはおことわり」なのか、彼の両親のたどった運命から分かることになる。両親はユダヤ人で、ナチの強制収容所へ送られた。幸運にもプロの音楽家を収容所が求めていたおかげで、ガス室へ送られずに生き延びることになった。

次々に強制収容所に到着する貨物列車から降りて来る大勢のユダヤ人たち。長い旅の後、シャワー室と言われてガス室へ送られるひととき、収容所の楽団がモーツァルトの音楽で収容者たちを癒すのだった。

ポオロの若い父と母は演奏仲間として知り合い、お互いに惹かれ合って終戦を迎える。そして結婚して、ポオロが生まれる。両親は演奏することで、収容所で生き延びることができたという自責の念から音楽を捨て、ベニスで理髪店を営む。そのベニスの路上で一人の老バイオリニストの演奏を息子のポオロが聞き、それをきっかけに彼は天才バイオリニストの道を歩き出す。路上の老バイオリニストは、強制収容所での両親の演奏仲間だっとという数奇な運命の物語。

絵は素朴なタッチで優しいが、強制収容所の場面はなかなかに迫力があって、見入ってしった。囚人服は白地にブルーの縦縞だが、これを見ていたら、50年近く前の中学3年の時に見たある映画を思い出した。ネットで調べたら『ゼロ地帯』と分かった。ナチの強制収容所の映画は何本も見たが、『ゼロ地帯』を見たときの衝撃が一番強い。

goo映画の『ゼロ地帯』紹介ページであらすじを読んだ。ストーリーから、15か16才のぼくはヒロインの少女に強く感情移入していたことが想像できた。あれからテレビでもビデオでも見ていないが、見たくなった。

ジョン・バーニンガムの絵本『ひみつだから!』

ひみつだから!ぶん・え ジョン・バーニンガム、やく 福本友美子(岩崎書店、2010年2月発行)

最近は絵本をほとんど見ていない。絵本を見る気分にならないのかも。先日、図書館で絵本を見るつもりはなかったけど、通路を歩いていたら返却本の中に本書の表紙が見えていた。一目でバーニンガムの絵本だと分かった。しかも、知らない絵本だということも。それに表紙がネコだしということで借りてきた。2009年に発行された新しい絵本だった。

内容とか絵にも、どことなく今風なところを感じる。家ネコは夜中、家を出ていて、昼間は寝ている。夜中に何をしているのか家の人には分からない。実は深夜のパーティで遊んでいるんだよ、という内容。

近所の不良として描かれているイヌたちがパーカーや帽子で決めたストリートファッションだったり、朝帰りの早朝の風景が描かれてたりというところがけっこう今風なんだ。でも、やっぱりどこかとぼけたバーニンガムの絵本だった。

“All the World” 家族愛いっぱいの絵本

All the WorldLiz Garton Scanlon (Author), Marla Frazee (Illustrator)
Beach Lane Books; 1St Edition edition (September 8, 2009)

あふれるような愛がいっぱいの絵本。いかにもアメリカという感じ。
男の子と女の子の幼い兄妹が海岸で砂遊びをしている。父さんと母さんが、さあ帰ろうと言っている。ロンゲにヒゲの父さんはサーファー。止めてあるピックアップの荷台にサーフボードが見えている。母さんはどことなくヒッピーの痕跡を今に残している。いかにもカリフォルニアな人たち。

イラストレイターの Marle Frazee はカリフォルニアのパサデナに住んでと紹介されている。この絵本の風景はすべてカリフォルニアなんだろう。ちなみに作者の Liz Garton Scanlon はテキサスのオースティンとある。

砂遊びの海岸から帰途につくピックアップだが、大型絵本の見開き一杯に海岸の全景が広がる。うわァ~と声をあげたくなるぐらいにいい感じ。目を凝らすと、兄妹の作っていた砂の城が波に飲まれようとしている。一家がこれから向かうガーデン青空市場が片隅に小さく描かれている。丘の上のピンクの家では、本書の各ページに登場する二人の婦人が、二人乗り自転車に歩み寄っている。

一家は市で花を買い、水遊び中に豪雨に合い、レストランで食事。暗くなって、この絵本に登場する人たちの多くが海岸沿いの一軒家に集まっている。サーファーの父さんがピアノを弾いている。ハープ、ヴァイオリン。小さな内輪の音楽会。熱心に耳を傾ける若い子たち、年寄りがいて、赤ん坊がいる。

満ちあふれる愛と平和。これは現実なのかな・・・、絵に描いたもちかな・・・。

昨夜はNHKの番組「消えた高齢者”無縁社会”の闇」を見た。今、ミイラ化、白骨化した高齢者の相次ぐ発見が話題になっているが、高齢者の取材を通して無縁化する高齢者の実態を追ったドキュメンタリーだ。きつい内容で暗くなった。寝る前に絵本”All the World”に見入ってしまった。

Jon Scieszka と Lane Smith の絵本『The Stinky Cheese Man: And Other Fairly Stupid Tales』

The Stinky Cheese Man: And Other Fairly Stupid Tales (Caldecott Honor Book)Text : Jon Scieszka(1992)
Illustrations : Lane Smith(1992)
VIKING, 1992

Jon Scieszka と Lane Smith コンビの痛快な絵本。アンデルセンの「みにくいアヒルの子」とかグリム童話の「かえるの王さま」など、よく知っている童話をもとにして、この作者ユニット独特のブラックユーモアな童話に仕上げている。

お話の方は、英語がもう一つなので、十分に楽しめないところだが、絵と本文のタイポグラフィーが素晴らしい。コラージュも数点あるが、これもいい。

新井良二の絵本『うちゅうたまご』

うちゅうたまご (こどもプレス)イースト・プレス、2009年8月発行

ライブペインティングが元になっていると思われる絵本。すごい迫力だわ。色が躍動している。抽象画のようなページもあるが、微笑みを誘うユーモアもある。

大きなキャンバスに大胆に描かれた黄色い線の楕円から始まるが、黄色の楕円は宇宙らしい。それが赤い輪郭となって、巨大なニワトリのかあさんになって、宇宙たまごが産み落とされて、なんてペインティングがえんえんと続いてる。

テレビのトークショーで作家の話しを聞いていたが、子どもを意識して絵本を作っていない、っていうようなことを言っていたと思う。ぼくも絵本を子どもの本として接していない。だから、作家の言葉に感じるものがあった。

新井良二の絵本『バスにのって』を眺めてトンパットン

新井良二 著(偕成社、1994年11月発行)

バスにのってトントンパットン トンパットン
トントンパットン トンパットン
まだまだ バス きません

って、表紙を開くと書いてある。
昨夜、寝る前の深夜にこの絵本を眺めてたら、眠っても
トントンパットン トンパットン
って、聞こえてたんだ。

人物の絵から判断すると、メキシコか中南米のどこからしい。
赤茶けた荒野に一本の道が通ってて、1人の旅行者がいつやって来るとも分からないバスを停留所で待っている。

その男がラジオをつけると、トントンパットン トンパットンと音楽が流れてくる。やがて、夜になり、朝日も昇るがバスは来ない。じっと絵本を眺めていると、トントンパットン トンパットン。
荒野に拡散して消え行く音が最後のエネルギーを使って、絵本を震わせた。

絵本作家、新井良二を数日前のテレビのトークショーで初めて知った。質問を聞きながら、答えながら、せっせと絵を描いていた。色鉛筆を走らせて、猛烈な早さで何枚も絵を描いていた。好きな音楽はと聞かれて、口ごもっていた。とうとう答えなかったけど、なんだろな。口ごもったニュアンスから現代音楽かなと想像したけど、分からない。どっちにしても、少数派の音楽には間違いない。

Susanne Janssen のグリム童話の絵本『Haensel und Gretel』

Haensel und Gretel長いこと絵本を見てきたが、本書ほどの素晴らしい絵本はなかなかないと思う。ドイツ語なので全く読めなくても、グリム兄弟の有名な童話『ヘンゼルとグレーテル』なので、日本語訳は何度か読んで知っている。

ヘンゼルとグレーテルの兄と妹は継母に森へ捨てられる。兄妹は森をさまよっているうちにお菓子の家を見つけ、空腹を満たす。お菓子の家は、兄妹をおびき寄せるために魔女が作ったもの。魔女は兄のヘンゼルを太らせて食べるつもりでせっせと食事を与える。妹のグレーテルは食事も満足に与えられずに魔女にこき使われる。最後は妹の機転で兄を救い出すというお話だ。

森へ捨てられる際に、ヘンゼルは帰りの道しるべとしてパン屑を捨てながら歩く。これは有名なエピソードだ。不安に陥った妹に対する兄の優しい思いやりだったが、パン屑は森の小鳥たちに食べられて二人は帰る道を失う。

兄妹については松岡正剛氏の千夜千冊サイトに詳細な解説がある(http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1174.html)。それは「あるとき、ぼくと妹はつながっていた。」と筆者自身の私事から始まる非常に長い解説だが、昔話から童話が成立する過程を追って興味深い。この童話は、まず、ヘンゼルとグレーテルが一人の子どもだということを理解することだというのだ。

Susanne Janssen の『Haensel und Gretel』の表紙は兄妹のはずだが、二人はとても似ている。本文では服装が違うので簡単に区別できるが、いやがうえにも松岡氏の解説に引き込まれてしまう。

ぼくは、特に『ヘンゼルとグレーテル』の絵本をあさっているわけではないので断言できないが、Susanne Janssenのような絵は他にないと思う。初めて見たときはかなりの驚きだった。音楽が聞こえてくるような絵だ。例えば、スロッビング・グリッスルのインダストリアル・ミュージックが最初に浮かんだ。いや、ミニマル・テクノの方かもしれないと思った。暗い森をさまよう兄妹は、クラブの闇の中にいるようにも見える。

ただ本書には、ひとつ分からない絵が最初にある。狩人の矢を受けて走る鹿の絵だ。この童話には鹿はでてこない。しかし同じグリム童話の『兄と妹』は『ヘンゼルとグレーテル』のように兄妹が森でさまよい、兄は魔女の魔法で鹿に変身させられる。この鹿が本書に描かれているのかもしれない。『兄と妹』は松岡氏の解説で初めて知った童話だが、『ヘンゼルとグレーテル』以上に兄妹の一体感が伝わっておもしろかった。